第二回文字リレー企画 作品掲載ページ
2025年9月1日~2026年1月25日に渡り行われた東方ニコ楽祭「第二回文字リレー企画」において、投稿された作品の掲載ページです。
総勢16名にて紡がれた物語をご堪能下さい。
フリー部門
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起:はちかし
承:琴の付喪神
転:mixtuti桜餅
結:ユア
起:はちかし
紅い月を背に凛と佇むお嬢様はなんとお美しい。
例えるならば紅く実った禁断の果実。
誰かに取られる前に私が食べてしまいたい。
十六夜咲夜
蛍は輝く。
でも雄しか輝かない。
私は女の子だからいつまでも輝けないのかな。
リグル・ナイトバグ
なぜあの桜の木はいつまでも花を咲かせないのかしら。
満開になれば、幽霊、妖怪、神さえも見惚れてしまうだろうに。
まるで過去に散ったことを後悔してためらっているかのようね。
西行寺幽々子
貴方はいつも輝いている。
貴方のおかげで私は輝いていられる。
貴方は動かず静かに私の側にいる。
それなのにどうして突然いなくなるのでしょうか。
私は貴方を大切にしているつもりです。
もしかして既に付喪神になっているのでしょうか。
ところで私の宝塔見ませんでしたか?
寅丸星
運命の分かれ道という言葉がある。
世界の外側を見てしまったが為に、巫女が私の頭を2つに分かれさせた。
運勢を見る私の頭が2つに分かれる。
そして今日もどこかで私の頭が2つに別れる。
易者
承:琴の付喪神
「何ですかこの文章の数々は!」
「だから夢の中で拾ったから意味は分からないって言ってるでしょ!」
蓮子はメリーが夢の中で拾ったと供述する紙切れの謎を、数刻前から聡明な頭をもって解決を試みていた。
後ろに書かれている人名も意味不明、文章の流れも意味不明となってはもう万事休すか―
すると、「あら、ここの文字が光っているわ」とメリー。
メリーが指し示した先にあったのは、「輝」の文字。紙切れをよく見ると、他の文章の中にも「紅い月」「桜」「宝塔」「運命」と、「輝」に関係しそうな文字があることに気づいたが、これだけではただ頭が「分かれる」だけにしかならない。
ん?待って?さっき、メリーは「夢の中」でこの紙切れを拾ったって言ったよね?夢?メリーは事実、現世に「禁断の果実」ではないけど、筍とクッキーと謎の紙切れを持って帰ってきているというのに!夢とかいいながら、勝手に境界を「見てしまった」から異界を彷徨っただけじゃないのか!メリーだけずるい!
そんなことを考えていると、急激に眠気が襲ってきた。
今の時間は…午前2時57分41秒!
さらに探索してヒントを探そう!
▶はい
いいえ
転:mixtuti桜餅
瞼が重い。
世界がゆっくりと、靄の向こうへ沈んで、音も温度も、すべてが遠ざかっていく――。
私はただ視界の奥の光景を“観測”していた。
……いや、観測させられている。
「……夢の続き、見てみたい?」
沈んでいく意識の底で、聞こえて来たのはどこか不安を含んだ声だった。
微睡む意識の中、私は星や月を見て時間や場所を把握しようとしたが、正確な情報を得る事は出来なかった。
現実の空ではない――そう理解するしかなかった。
「メリー……これは本当に“夢”なの?」
「ええ。でも、もう少しで“現実”になるわ」
「輝」「紅い月」「桜」「宝塔」「運命」――
光る文字が、夢の層を縫い合わせるように浮かび上がる。
「ねぇ、蓮子。……これが夢と現の境界なのかもしれない」
「見えたの? また“向こう側”が」
「ええ。今夜は、すぐそこにあるの」
湖の匂い。竹林のざわめき。紅い館の影。
幾重もの世界が、薄い膜のように重なり合っていた。
私の意識はさらに深い層へ沈み込んだ。
ここがメリーの夢の中なのか、それとも現実そのものなのか。
いずれにせよ、私はこの夢に“見せられている”だけの存在へ変化していった。
結:ユア
気がつくと私は見知らぬ洋館の中にいて、そこでは「サクヤ」と呼ばれた。
次に気がついたときには大きな桜の木の前にいて、そこでは「ユユコ」と呼ばれた。
目覚める度に異なる場所で異なる名前で呼ばれた。
自我が朧気になる。それでも誰かに何かを伝えなければいけないという使命感だけは強く抱き、湧き上がる想いをひたすら紙に残した。
また誰かに名前を呼ばれた。
声の主は紫色のドレスを身に纏い金色に輝く髪が腰の辺りまで伸びた妖艶な女性。
「貴方の役目は終わりました。その紙は回収します。『彼女』には私から渡しておくわ」
持っていた数枚の紙はいつの間にか彼女の手に移り、同時に私は黒い何かに飲み込まれ……
そして、自室のベッドで目を覚ました。
途轍もない体験をしたような気もするが何も思い出せない。
頭の中を整理しているとメリーから着信が届いた。
「蓮子、深夜に悪いんだけど今から私の部屋に来てくれる?」
只事ではないと感じた私はすぐにメリーのアパートへ向かい、飛び込むように部屋へ上がった。
「それで? 一体何があったの?」
「あのね蓮子、これを見てもらいたいんだけど……」
メリーは数枚の紙切れを私の前へ広げた。
お笑い部門
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起:美容室(マツリ)
承:SABA
転:和風海苔
結:めるみ~
起:美容室(マツリ)
知人の髪が伸びている。
キノコ談義に花を咲かせ、テラスで菓子をつまむ【アポなし白黒】を一瞥したアリスは、皮肉でも返そうと本を伏せた。
「髪?そういや半年切ってねぇな」
「どうせ部分梳きして放置でしょ、がさつね」
「違えよ、馴染みの店が閉店して傷心中なんだぜ、およよ」
癖毛魔理沙曰く、好きだった店だけに、鞍替えした先で変な髪形にされると自分の審美眼が傷つくらしい。
「で、カリスマ美容師目指して自分の髪で練習したけど、忙しくて投げた、と」
「投げてねぇ、休業中だ」
アリスは頭を抱えたが、暇ついでに妙案を思いつき、それに対し魔理沙は目を見開いた。
「お前が私の髪を!?」
「特別にタダでいいわ」
机にはハサミや櫛、パーマロッド等が並び、一瞬でクロスに包まれ椅子に拘束された魔理沙はアリスを睨む。
「……普段から森に籠ってるお前がこんな事に慣れてる筈がない。さてはプラクティスモードで弄(いじ)くり回す気だろ!」
「痒い所はありますか?」
「それ終盤で使う台詞だ!」
無花果のクッキーをつまみ食いしたのがそこまで気に障ったのか?そう魔理沙はため息をつき、彼女の一挙手一投足に目を光らせた
承:SABA
「なに?そんなに気になるの??じぁあ……」
アリスはどこからかなにかを取り出して魔理沙の目を覆った。
「なんだよこれ?!」
「石にされたら困るでしょ」
「私はメデューサじゃない!!」
視界を奪われ魔理沙は動揺した、瞳を開いて前を見つめても先が見えない、おそらく黒色の目の細かい布なのだろう。
眼にあたる布の外側には作り物のたれ目のシールが貼ってある、アホみたいな巨大テルテル坊主の出来上がりだ。
「これから食べる2枚のクッキー、ひとつはお手製、ひとつは特売品、一流魔法使いの魔理沙ならわかるわよねぇ」
「私は普通の魔法使いだぜ」
「映す価値無しになって消えないようにしないとねぇ」
主導権はアリスにある、五感のひとつを奪われ魔理沙は余裕が無くなっていた。
「髪はどうした?髪は??」
「あら、もうはじめてるわよ」
視界が戻ったら昇天ペガサスmix盛りになってるんじゃないか……
魔理沙は不安に駆られた。
しかし不安と同時に襲ってきた睡魔に抗えず、静かに眠りの底へ沈んでいった。
転:和風海苔
ずるずる…
辺りにラーメンを啜る音が木霊する。
「な、なにー!!」
面食らったアリスの目の前では寝巻きのような服装の少女が胡座をかいてラーメンを食らっていた。
「こ、これは……!?」
見渡すとそこは目の前の少女、パチュリー・ノーレッジの管理する一室である紅魔館の大図書館。
アリスは動揺を隠せぬままにパチュリーに問い質す。
「さっきまでのマリアリは?!」
コン!と音を立てラーメンの丼を置き、パチュリーは言い放つ。
「ふふふ、マリアリなどとその気になっていた貴女の姿はお笑いだったわよ」
パチュリーは紐のついた硬貨を取り出し、妖しく揺らす……
「ーーッ!?」
それは原始的な小道具、古典的な催眠術に使われる代物。
しかし、直前までの景色が消え、今この場にいるという事実がアリスが催眠に堕とされていたことは明白であった。
「……いつからなの?」
「いつから……? 面白い事を訊くわね。
貴女、自分で『催眠?ありえないわ』なんて言ってたじゃない」
「だから一体いつから私は催眠に……」
「そうね、逆に訊くわ。
一体いつから――催眠が解けたと錯覚しているの?」
「なん……だと……?」
結:めるみ~
「こうなれば貴女にも……上海! 蓬莱!」
アリスの背後から人形2体がパチュリーに襲いかかる。大図書館は動けない。十進法を採用しながらあっさり捕まった。アリスは紐付き硬貨を片手にパチュリーににじり寄る。
「よくも私の煩悩を……!」
「煩悩は認めるんかい」
「待てよ」
「魔理沙?」
八卦炉を手に自称カリスマ美容師が立ちはだかる。
「パチュリーは小悪魔との主従逆転物の方がお似合いだぜ」
「そっち!?」
そこにひょっこり現れた河童。
「いやいや盟友、こいつにはぬるぬる触◯プレイだろ」
「最早あんたら何しに来たのよ」
パチュリーのツッコミを他所に3人はヒートアップ。
「解釈違いね」
「こうなったら」
「誰がパチュリーに相応しいか勝負だ!」
「そこまでよ。このままだと『ノルマ達成』とか何とか……」
同時刻、霧の湖の畔。紅い爆風はケラケラ笑うブン屋とのんきにアイスを頬張る氷精の髪を揺らす。
「あやや、また盛大に逝きましたねぇ」
「『いつもの』だろー。あんなのよりあたいの記事書いてよー」
「はいはい、今日も幻想郷は平和でした、と」
後日「こういうパーマは変ですよww」とブン屋と氷精に大爆笑された4人がいたというのは、また別のお話。
シリアス部門
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起:蓮々
承:水炬
転:Aneko3
結:ネギラーメン
起:蓮々
<ようかい>のみなさん、ごめんなさい。わたしはたった一人の人間のために、この話をのこします。そのわけはたくさんありますが、ひとことでいうなら、わたしはその人間をいちばんにあいしているんです。そして、わたしがこの気持ちをわすれるまえに話しておきたかったんです。<ようかい>のみなさんも、この気持ちをもっていたはずですから。
1
<ようかい>のわたしは、どこかおかしかった。同じ<ようかい>なのに、なじめなかった。<ようかい>にも色々いるけれど、みんなそろってながく生きていた。みんなそろって、じぶんのいのちをながくみていた。だから、生まれたてのわたしはひとりぼっちだった。
ある時、そんなみんなにいやけがさし、とおくへにげだした。ふかい森をぬけ、赤くもえるような花をかき分けた。気がつくと、たくさんのお墓がならんでいるところにたどりついた。大きな木もかれていて、とてもしずかだった。大きな木をよくみてみると、一人の人間がだらんとよりかかっていた。気になって、大きな木にちかづくと、その人間はめそめそしながらわたしにおねがいしてきた。
「ごめんなさい……わたしのことを楽にしてくれませんか?」
承:水炬
凡そ似つかわしくない仕草をしている、菖蒲のような人間にそう話しかけられた。
尩弱たるわたしにはとても適わない。だけど、人間もまた尩弱なさまだ。
空虚のわたしには持ち得ないものがある。だけど、人間は烏有へ向かっていた。
曖昧模糊なわたしを見つめる人間は、雲散鳥没へ向かおうとしていた。
そんな姿に耽溺してしまうほどの愛を擁いてしまった。
2
はて、“楽”とはなんのことだろうか? とわれたわたしにはよくわからなかった。
人間に見つめられながらかんがえてみた。わたしがとおってきた道に“楽”はなかった。わたしにとって“苦”しかなかった。
おかしかったから。なじめなかったから。じぶんをながくみれなかったから。そしてなにより、ひとりぼっちだから。
そういえば、わたしにとっての“楽”とはなんだろう。かんがえたこともない。
「楽にしてくれ」とはそこにいる人間にとっての“楽”ということだろうけど、<ようかい>のわたしにはわからないし、知る辺もないから。
いまのわたしは、人間が寄りかかった大きな木のうろのごとく、がらんどうなのだ。
「……ごめんなさい、わたしにはその意味がわからない」
転:Aneko3
わたしのへんじに、その人間はすこし笑ってから顔をうつむかせた。さらにたよりなくなった姿を、しずけさのなかで見つめていた。
“楽”がわからないわたしにはねがいをかなえてあげることができない。ほかの誰か、同じ人間やながく生きた<ようかい>ならできるのかもしれない。ならばもう、わたしがここにいる意味はない。
それなのに、うごけない。やりかたをわすれたみたいに足も手もかたまって、目がそらせない。このよわよわしくてめそめそした人間につよくひきつけられている。まるで魔法にかけられたみたいで、ふしぎでこわい気持ちがした。
3
しずかなじかんがどれだけつづいたのか、ふいに人間がゆっくりと顔をあげた。木に寄りかかったまま、からだごとわたしのほうを向いて、またほほえんだ。それはさっきよりもおだやかに見えた。わたしにこんな顔を見せたひとは、今までだれもいなかった。
「ごめんなさい、無茶を言って。——ありがとう」
結:ネギラーメン
そう言うと、彼女は一本の縄を枝に結び付けた。わたしはこれから彼女が何をしようとしているのかわかった。けど、まだ体が動かせない。たすけなきゃ、たすけなきゃ。だけどわたしの思いはむなしく、彼女は最後の言葉を紡ぎ、縄を首にかけた。ようやく体が動いた。しかし、もう遅かった。わたしが駆け付けたときには、もうすでに彼女は物言わぬ骸になっていた。
これが彼女にとっての“楽”なのだろうか?だが、それはわたしにとっては“苦”がもたらす行動だった。わたしは彼女を必死に救おうとした。しかし、<ようかい>の力をもってしても、その命を戻すことはできなかった。私はこの出来事が受け入れられなかった。私は彼女を弔うために花冠を作り“楽”になった彼女の頭に乗せた。そして、この場から逃げ出していた。
4
これは私の知らない話だが、どうやら彼女は生きているそうだ。<ようかい>の力がうまく作用したのか、彼女が起こした奇跡なのか。もしかしたら、最後に弔いを行ったからかもしれない。
これは彼女の話だが、あの日のことをあまり思い出せないそうだ。でも、あの時の会話は鮮明に覚えているらしい。
今もお互い、疑問に思っているだろう。
「彼女にとって“楽”はなんだろうか」
相談禁止部門
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起:かづき
承:伊賀高原
転:鉄骨屋
結:織然
起:かづき
微酔の淵で、ふと思い返す。
どうも、この席に着いた経緯が思い出せない。そこまで正体を失くしたつもりは無いのだが。
「蓮根の素揚げ、お待たせしました!」
「美宵ちゃん、もう一本いいかい?」
「はーい、ただ今!」
……まぁ、今はどうでもいいか。
極上の酒と肴に比べたら、全ては些末な問題だ。
「んが……あふ、あっふ」
「……おいし」
賑々しくも喧しくない、長閑な活況。クジラ帽子の看板娘が、心地好い空気に花を添えている。
「可愛い子にサーブして貰うと、色々進んじゃうわねぇ」
「蓮子、親父臭い」
ついつい口も軽くなる。それに、一見澄ました態度だが、メリーも相当に上機嫌と見える。
「あの~……」
と、噂をすればいつの間にか、隣に看板娘の姿があった。
「相席、ってお願いしても……?」
ふむ。この店の魅力を考えれば、席が足りなくなるのも必定。
相手が誰であれ、ここで過ごす時間を我慢させるだなんて……そんな残酷な真似、出来るわけがない。
「メリーもいいわよね?」
「ええ、どうぞ」
「有難うございます!お待たせしました、こちらどうぞ!」
一際明るい声に導かれ……幸せ者がまた一組、隣の座布団に腰を下ろした。
承:伊賀高原
「まぁお二人さん、まずは一杯…」
初々しい勤め人になった気分で酒を注ぐ。
「ありがとうございます。お二方とも珍しい格好ですね」
「やっぱりそう思います?よく言われるんですよ~」
「蓮子、すっかり社会人気分ね…」
横槍を受けつつ、目の前の2人を眺める。
片方は楽器―確か二胡と言っただろう―を背負った少女で、
片方は霊を彷彿とさせるやや血色の悪い少女だ。
もう慣れたとはいえ、酒場に似つかわしくない容姿である。
「二人はどういった関係なんです?」
「…実は私達もよく分かってないの」
中々の答えが返ってきた。興味深い。
「強いて言えば…二人共忘れられた存在って所ですね」
「ほうほう?詳しく聞かせてもらえますかな?」
メリーが自重するよう促すが、ここは興味を優先する。
「私は元々、この世界の主役になる筈だったんだけどね…
否定されたのよ。創造主にね」
スケールの大きい事を言う。やはり面白い少女だ。
「私も世界から忘れられてね…姉さん達も、もう覚えてないでしょうね」
こちらも面白い。関心が強くなった。
「私達はね、封じられた秘密を暴くのが何よりも好きなの。
もっと詳しく聞かせてもらえない?」
転:鉄骨屋
そうして彼女たちは「積もるほどの話はないのだけれど」と前置きをして、自らのことを滔々と語り始めた。
捨てられ、否定された者の話は、語り手も聞き手も含めて段々と陰気臭くなるのが定石だ。
この騒がしい酒の場も定石に倣い、段々陰りが見え始めた頃。
快活な声が場を一閃した。
「でもさぁ。本当に否定されて捨てられて忘れられたら、きっとここにもいないはず。だから、もっとポジティブに、理論的に考えないと。私たちがここに行きついた理由はきっと」
彼女は御猪口に入ったお酒をグッと飲み干す。
「私たちが主役の物語が始まるのを待っているのよ。どんなにちっぽけな演目でも、きっと物語は産声を上げる。その声が聞こえたら、私たちは否応なしに舞台へ向かわないといけないの」
メリーと呼ばれた少女は相席した面々に申し訳なさそうに目配せをした。恐らく蓮子という女性は酔うと口が回るのだろう。
「もしそれが、何時まで経っても訪れなかったら?」
私の質問対して、彼女は二ッと笑って答えた。
「簡単よ。お酒を飲んで待つか、もしくは自分で物語を作ってしまえばいい。演者たちが物語を語り始めたらいけないなんて、いったい誰が決めた?」
結:織然
「草木も眠るは丑三つ時。
雫の音だけが寂寥の中木霊する。
先程までの繁昌も今は彼方。残響も感じられない閑散とした店の中で私は一人、ただあの風変わりな彼女の言葉だけを反芻している。
口を出す気はなかった。私が観たかったのは主役たちの物語であり、私が主役の物語ではなかったはずだ。
ただ、忘れられることにも忘れさせることにも慣れた身なれば。あの酔いどれ彼女の言葉に応えずにはいられなかった。
であれば、既に私は舞台に上がってしまっていたのだろうか。
きっと彼女たちは覚えていまい。忘れたことも、忘れられたことも、皆等しく。
人も妖も皆忘却を求め酩酊に夢を託す。さりとて哀しい哉、夢から醒めるのはいつも唐突なものだ。起こしてしまったのなら、せめて主役にはなれずとも狂言回しくらいは引き受けよう。
…いや、事ここに至って誤魔化すことはすまい。全てを見透かしたかのような彼女の視線が今も脳裏に浮かんでは仕方ない。思うにこれは欲と言うものだ。
帽子を目深に被り直す。手にはなみなみ注がれた盃一つ。
これから夢に入るのか、夢から醒めるのか。それでも願望を語るには余りあろう。
目覚めを迎えるまでのこの一献、午睡の夢とて笑うまい。